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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)11132号 判決 1973年5月18日

原告 浜地恭子

被告 安田吉男

右訴訟代理人弁護士 小川休衛

同 木村英一

同 森寿男

主文

被告は原告に対し、金二三万三五一五円およびこれに対する昭和四六年九月二六日以降支払済みまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

原告その余の請求は棄却する。

訴訟費用は、全部被告の負担とする。

この判決は、確定前に執行できる。

事実

原告は「被告は原告に対し金三五万円およびこれに対する昭和四六年七月一一日以降支払済みまで年一割八分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行宣言の宣言を求め、請求の原因として「原告は被告に対し昭和四六年七月三日金三五万円を弁済期同月一〇日、利息年一割八分との約定で貸し付けたが、被告は弁済期までの利息を支払ったのみで、元金および期限後の損害金の支払をしないので、請求趣旨のような判決を求める。」と述べた。

被告訴訟代理人は、請求原因に対し、「原告主張の事実は利率の点を除き、認める。利息は月五分の割で天引の約であった。」と答え、抗弁として、「被告は昭和四六年七月一五日当時、(1)三五万円、(2)二五万円、(3)五〇万円、(4)七万円、(5)三五万円の五口の貸金債務(利率はいずれも月五分)を被告に対して有しており、本件貸金はそのうち(5)に当るものであった。その後被告は原告に対し、昭和四六年七月一五日、右(1)の三五万円の内入として一二万円を弁済したので、債務は合計一四〇万円となったが、同日原被告間の同意により、五口の借受金の弁済期を次のとおり、(1)昭和四六年九月一二日、(2)同月一五日、(3)同月八日、(4)同月八日、(5)同月七日、とそれぞれ変更し、その弁済期までの利息分を合計一四万四八五〇円とし、債務総額一五四万四八五〇円に対して、被告所有の刀剣三口を、次のとおり、(イ)無銘刀麻刀一口を前記(1)(2)の、(ロ)波平安行刀一口を前記(3)の、(ハ)荘司弥門直勝刀一口を前記(4)(5)の、それぞれ弁済を担保するため、被告に売渡担保として渡して、もし、被告が期限に弁済しないときは原告が弁済に代えて右三口の刀剣の所有権を取得し、その余の清算を要しないことと合意した。結局被告は弁済できなかったが、原告は右三口の所有権を取得したものであるから、被告には残余債務はない。」と述べた。立証<省略>

理由

一、請求原因事実は当事者間に争がないので、問題は被告主張の代物弁済の約定が存在したかどうかである。

二、<証拠>を総合すると、次のような事実関係が認められる。

原告は父の後をついで古美術品商を営んでいるが、同業者である被告と知り合って、昭和四六年頃、頼まれて金を用立てるようになった。その方法としては、直接貸すこともあったが、むしろ、原告が被告の品物を原告名義で大黒屋という屋号で質屋を営んでいる浅野に預け、借り受けた金員を被告に貸すという方法がとられた。

このようにして、昭和四七年七月中旬までに、当麻友清刀を担保に三五万円、波平安行(または安明)刀を担保に二五万円、弥門直勝刀を担保に五〇万円が用立てられたほか、原告が自己所有の中島来刀を担保に大黒屋から借り出した三〇万円に手持ちの五万円を加え、計三五万円を現金で貸し渡した分があり、貸付金は元金だけで一四五万円になった。その後被告が行方不明になったりし、大黒屋に対する関係では原告が借主になっている関係上、その間の利息を原告が支払っており、また、右のうち弥門直勝刀は被告が正式に所有権を取得していなかった関係で告訴され、刑事事件としての取調のため、大黒屋からそれを受け出すなど、すべて原告の出費となった。

被告は、原告に対し、昭和四七年九月三日頃、従来の債務関係を確認する文書を差し入れることになり、その機会に内金一二万円を返済し、結局、元利債務残額一五四万四八五〇円で担保は先の三口の刀ということを明記し、新たに弁済期を定めて準消費貸借とした書類である乙第一・第二号証を作成した(乙第一号証の日付は遡らせて記載したものと認められる)。

しかし、被告はその後何の弁済もしなかったので、原告は被告に対し催告した上、刀剣類に明るい同業者に、原告が大黒屋から受け出した三口の刀を同年一一月、一二月頃売却し、その額は、弥門直勝刀六六万五〇〇〇円(甲第一号証では七〇万円であるが、原告本人の供述および甲第六号証により原告手取額は右額であったものと認める。)、当麻友清刀四〇万円、波平安行刀三二万円で、合計一三八万五〇〇〇円であった。

三、ところで、問題は、右三口の担保が被告のいうように、債務全部の弁済に代えて所有権を移転するとの合意を伴っていたのか、どうかである。証拠上これを裏付ける文書は何もない。被告本人はその旨供述しているが、右の乙第一、第二号証作成時に、あるいは更に遡って当初の担保差入時に、その旨合意したというのか、原告が処分直前電話連絡して来た時その旨取り決めたというのか曖昧であるのみならず、その供述によれば、高く売れたら差額は返して貰うが安く売れても清算しない旨の合意だったというのであるが、原告本人の供述に照らしても、そういう一方的に被告に有利な合意が成立したとは認め難い。従って、清算が前提であった、と見るほかないが、この点につき、原告本人の供述および甲第七号証によると、原告は、その後の立替利息分一六万一四八五円および原告の手数料(前記刑事事件前後原告が支出した諸費用を含むと解される。)七万三六六五円をも合せて清算する意図を有していることが明らかであるが、右の立替利息分なるものは、その供述に徴しても、当時原告自身の借入金の利息が大黒屋に支払われたのとの区別が明白でなく、その限り全部を清算の対象にするのは失当と考えられる。一方、手数料の方は、その内訳費目は必ずしも明白でないが、前認定の経過に照らし、これを清算の対象とすることは、当事者の意思に合致すると解すべきである。

四、そうすると、前記一五四万四八五〇円から一三八万五〇〇〇円を差し引き、これに七万三六六五円を加えた額である二三万三五一五円が清算後原告の要求しうる額であるところ、原告の本訴請求原因による請求は、右のような清算後の残代金請求としての趣旨をも含むことは、その証拠方法の提出に徴しても明らかであるから、請求の一部認容は原告の訴旨に反しない。ただ、利息は乙第一号、第二号証に記載がなく、また弁済期は、乙第三号証から昭和四六年九月二五日まで猶予されたものと認められるから、損害金としては、同月二六日以降商事法定利率年六分として認容すべきである。

五、よって、主文のとおり一部を認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担は民事訴訟法第八九条、第九二条但書に、仮執行宣言は同法一九六条に、則って、主文のとおり判決する次第である。

(裁判官 倉田卓次)

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